1/19 天気/曇り 気温/息が白くなるほど寒い、明日から雪らしい
shadow

影法師 / 百田尚樹
百田尚樹本3冊目。
今度は江戸時代末期の侍の話。
下士の家に生まれた主人公:勘一と、中士の彦四郎の男の友情を描いた物語。

相変わらず百田尚樹氏の作品は、頁をめくる指が止まることなく読み進めてしまう。
人生を左右するような出来事に、思い悩むその様さえ、傍観者の様に淡々と表現するので、
なかなか深い所まで共感するゆとりを与えてくれない。
ほとんど時系列的に出来事が並べられるので、先の展開を急ぐとどうしても頁が進んでしまう。
気付くと大きな山場が終わっていたりする。
勘一が道場に通う金が工面できない為、寺の裏で一人木刀を一心に振るう。
それを見た和尚が、砂袋を巻いた重い木刀で素振りをする練習を指示する。
それを頑なに守って幾年も続ける訳だが、その練習が必殺剣を習得する為に必要な練習であったとなる。
しかし、その必殺剣を伝授する場面、勘一が始めて人を切る場面、
上覧試合での取り組み。
この他いくつか剣を抜いて戦う場面があるのだが、
いづれもあっさりとしてる。
命のやり取りをしているような迫力が全くない。
藤沢周平の殺陣場面の描写に比べ様もない。
なんだか切られても痛くないのだ。

最後に、彦四郎が勘一の為に人生をなげうって守ったという説明に至るわけだが、
余りの取ってつけたような話に首を傾げるしかない。
自己犠牲にも程があるだろう。
まして、彦四郎ほどの剣の腕があれば、上位討ちの場面でももっと違った展開があったはず。

どうも、この本は後半から展開をかなり急いでいて、
手っ取り早く結末を描いて終わらせた感が強い。
他の執筆に追われていたのだろうか?
彦四郎の扱いを違えれば名作になったはずがだ、惜しい作品だと思う。