8/12 四万十川カヌーツアー二日目の午後2時ごろの出来事

堅い金属が、滑らかな曲線を描く車体を弾く、鈍く短い音がした。
左のフロントフェンダーからだ。
四万十を照らす日差しがこぼれる狭い山道。
右のサイドミラーでは走り去る車のリアが小さくなっていた。

その日出発地点に置いてきたAlfaを、今日の宿泊ポイントまで下ろす為に、
左に四万十川を見る1車線の道を下っていた。
所によっては、わずかな崖のくぼみに車を寄せて離合する様な道が続く。
すこし道幅が広がり、皆が待つ場所へと少し急ぐ為に、右足は少し踏み込んでいたが、
カーブが連続して見通しが効かないので、常にブレーキを意識した速度で走っていた。

二つ先のカーブに対向車を見た。
離合するのはこの先の右カーブになると予測。
しかし、お互いが走行しながら離合できるほどのゆとりのある道幅だった。
黒いミニバンがカーブの先から、予想を上回る速度で現れる。
速い。
瞬間的に右足はアクセルを抜いて、ブレーキペダルに移っていた。
すれ違いはギリギリになる。と、
いきなりその黒い車体が揺らぎ、あろうことか走行ラインが膨らんだのだ。
サイドミラーが相手の車体をこする距離。
左には川への転落を防ぐためのガードレールがある。
対向車とのすれ違いに備えて、すでに30cmを切る程度までに寄せていた。
ブレーキを踏む間もなく、反射的にハンドルを左にこぶし一つほど切った。
感覚では1cm程度残してガードレールとの接触を避けたはずだった。
しかし、無情にも薄い鉄板を小さなハンマーが叩くかの音が室内に響いた。

運転席のウィンドのすぐ横を相手のテールが抜けて行く。
ブレーキを踏みこみサイドミラーを見ると、速度を落とすそぶりも見せずに走り去るミニバン。

少し先に退避出来る場所があったので車を止めて、左フロントフェンダーを見る。
無残にも親指ほどの凹みが出来ている。
感覚では、ほぼ平行にガードレールにこすったはずなので、
擦り傷の様になるはずだが、この凹みはなぜ?

そのまま歩いて接触したと思われるガードレールまで戻った。
ガードレールにはどこにもこすった後が無い。
近づいて良く見ると、、、、あった。
薄く苔がついてる所に2cmほどの細い線がある。
その線はガードレールをつなぐ丸いリベットで途切れていた。
そこに赤い塗料が付着していた。
このリベットが無ければ、薄いこすった様な傷で済んだはずなのに、、、

相手の車に対して怒りも湧いたが、
こんな旅先の山道で、不用心な運転をしていた自分におごりがあったのだ。
その事の方が落ち込んだ。

その日の夜は、気持ちが沈んでどうしても陽気になれない。
ツアーの皆に心配を掛けたくないので平常を装っていたが、
呵責の念がぬぐえず、早めに失礼して寝てしまった。

ツアーから戻り、ディーラーさんのスケジュールを確認して、8月23日にドック入りした。

あまりのショックで、写真は無い。